静岡地方裁判所 昭和30年(レ)48号 判決 1956年8月31日
控訴人 金井キセ
被控訴人 第一不動相互株式会社
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人は、本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする旨の判決を求めた。
事実関係として、被控訴会社代表者は、被控訴会社は金融業を営むものであるが、昭和二七年七月一日、訴外野沢政男に対し、金一〇万円を利息日歩二〇銭、弁済期同年九月三〇日期限後の損害金日歩三〇銭と定めて貸与し、同日控訴人は右債務につき連帯保証をなした。右野沢は、借受に際し、被控訴会社に対し、同日より同年九月三〇日まで毎日五〇〇円宛掛金をなし、これを弁済期において、右債務の弁済に充当する旨を約し、同日までに六九回分合計三四、五〇〇円払込み、その後更に昭和二九年七月一四日までに、一八、五〇〇円の支払つたが、弁済期日までの利息一八、四〇〇円の弁済にまず充当されたので、元本残高は六五、四〇〇円であるから、この金額及びこれに対する昭和二七年一〇月一日以降完済まで日歩二〇銭の遅延損害金の支払を求めると述べ、控訴人の抗弁に対し、被控訴人の懈怠によるとの点を否認し、その余の事実はすべて認める、右は訴外野沢が被控訴会社を欺罔して抵当権設定登記を阻止しながら、昭和二七年秋頃届出印鑑を改印したうえ、同年一二月二九日他に売却したもので、右担保の喪失は、被控訴会社の故意又は懈怠によるものではない、と述べた。
控訴代理人は、被控訴会社の主張事実中、被控訴会社が金融業を営むものであること及び連帯保証人となつた点は認めるが、その余は不知。訴外野沢は、本件金員貸借に際してその所有する別紙<省略>記載の建物に右債務のため抵当権を設定し、その登記に要する一切の書類を被控訴会社に差入れたが、被控訴会社の懈怠により登記がなされなかつたので、右訴外人は昭和二十七年一二月二九日これを他に売却して移転登記を了し、被控訴会社は担保を喪失した。当時右物件は、本件債務を完済するに十分の価値があつたから、保証人は全額について保証債務を免れたものである。と述べた。
<立証省略>
理由
控訴人が昭和二十七年七月一日訴外野沢政男(原審共同被告)の被控訴会社に対し負担する金十万円の借受金債務につき連帯保証を約したことは本件当事者間に争がない。
よつて控訴人の抗弁について判断すると、
訴外野沢政男が、被控訴会社より金員を借入れるに際し、別紙目録記載の物件に抵当権を設定し、登記に要する一切の書類を被控訴会社に差入れたが、登記手続がなされなかつたこと、右野沢は昭和二七年一二月二九日右物件を他に売却して移転登記を了したこと、当時右物件が本件債務を完済するに足る価値を有していたことは当事者間に争がない。而して原審における証人小峰徳治原審並に当審における控訴本人金井キセ尋問の各結果を綜合すれば、被控訴会社は前記のとおり訴外野沢政男に金員を貸与するに際し同人より抵当権設定登記に要する一切の書類を徴したのであるが当時同人との間に貸付の日より向う三ケ月毎日金五百円宛を同人において滞りなく支払つたときは担保物件は之を同人に返還するとの特約があつたことと、被控訴会社において、保証人たる控訴人の弁済資力を信用していたため、直ちに抵当権設定登記手続をなさず、弁済期を過ぐるも放置しておいたため、ついに同人において担保物件を他に売却処分してしまい、右担保を喪失するに至つたことを認めることができる。野沢政男の原審における共同被告本人、当審における証人としての供述中、右特約の存在を控訴人においても知つていた旨並びに右野沢が滯りなく前記期間前記日賦金を支払つた旨の各部分はいずれも、たやすく信用し難く他に右認定を覆して、被控訴会社が右設定登記手続をしなかつたことが社会通念上やむをえざるによるものであることを首肯するに足りる証拠はない。
そうすると、被控訴会社はすでに、担保として成立したものにつき、その保存を怠つたもの、すなわち、被控訴会社の懈怠により本件担保の喪失を招来したるものと認定するを相当とするから連帯保証人たる控訴人は喪失のときにおける右担保物件の価額の限度において其責を免れたるものというべく、右喪失当時における右担保物件が本件債務を完済するに足りる価値を有していたことの当事者間に争なき以上、控訴人は本件債務全部の支払義務なきに至つたものと断ぜざるをえない。
よつて被控訴人の請求を容れて控訴人に敗訴を言渡した原判決は不当であるから之を取消したる上被控訴人の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 戸塚敬造 土肥原光圀 小谷卓男)